チラ裏2

きちんとした記事にまとめるかもしれないことのメモ、雑記。

2021-06-20 ProtonMail: v3 onionにようやく対応

ProtonMail は必ずしも信用できない。具体的に、ずっと v2 onion のままなのが、懸念の一つだった。けれど先週、いつの間にか(2021年6月14日ごろ)、ひっそり v3 に対応していた。

「v2 廃止」の警告が出るようになっても、この会社は「v3 対応の準備中だが、具体的なスケジュールは未定」のようなことを言っていた。爆発的に大きくなってしまい、対応が後手後手なのかもしれない。あるいは商売っ気が過剰になって、もう腐りかけているのかもしれない。

自社のVPNサービスを販売する都合上、「プライバシー的には無料でもっといいものがある」ことを前面に出しにくいのだろう。「友達と一度鍵を交換すれば、どんな回線を使っても簡単に end-to-end で暗号化できますよ。OpenPGP は Thunderbird のデフォの機能です」「ところで ProtonMail を使っても、通信相手が G ならメールは全部読まれてますよ」なんてことを言ったら、一般の客は逃げてしまう…。多くの人は「暗号化しているから安全」という誤解に基づきつつ「信用してお任せする」という選択をする。

「誰も信用できず回線は盗聴され放題だとしても、正しい手順を踏めば、ほぼ安全でセキュアな通信ができる」ということは、計算量(一方通行関数)の問題で、直観的に分かりにくい。

同人関係の人はよく「自分が死んだら、恥ずかしいファイルを見られないように、誰かにHDを消してもらいたい」というようなことを言う。そのように「誰かに頼ること」が既に脆弱性。そこまで見られたくないのなら、最初から(今からでも)デリーケートなファイルは全部ローカルの仮想ドライブに移動させ、毎回パスワードを入力すればいい。仮想ドライブの実体を巨大でも怪しまれないタイプのファイルにしておけば、家族・知人の目を欺くくらいはできるだろうし、仮想ドライブとばれても、本人が死んでパスワードが不明なら、誰にもロードできないから問題ない(笑)。

ついでに言うと、一般的な「ファイル削除」は「復元できないような本当の削除」になっていない。DEATH NOTE でワタリがボタン一つで一瞬にして「データ全削除」をしているが、物理破壊でない限り、あんなに速い全削除は無理。最低でも全バイトを1回ゼロで上書きする必要があり、巨大データを消すのは何時間もかかる。しかもそれは最低限のこと。機密データを消す場合、一般的には乱数での上書きを7回くらい繰り返すので(念入りなやり方ではさらに何度も上書き)、一日かかる。…この処理はフリーのツールを使って一般人でも簡単にできるものの、それを知らない友達に「普通の方法でファイルを消してもらう」だけでは、気休め程度…と解釈してほしい。

ProtonMail も「暗号学的には気休め程度(プライベートキーをサーバー側に置くのは、本質的には、暗号化してないのと同じ)。でもグーグルと違い、勝手にメールを読まれて広告を入れられる心配はない」くらいの、いいかげんな気持ちで使えばいい。「個人情報を何も渡さず、登録から利用まで全てTor経由の匿名でできるサービス」は、10年くらい前と比べると、結構増えている。ネットが自由になってきたというより、逆に「一挙一動を監視するサービスが当たり前になってしまった」ことへの反動として、それをうっとうしく感じるユーザーの間で「お金を払ってでも、プラバシーを尊重してくれるサービスに移行したい」という需要が増えているのだろう。

2021-06-22 【続報】ProtonMail の v3 onion に疑義 プライバシー生活への移行は「いいかげんな気持ちで」

前回(2021年6月20日)、ProtonMail が先週 v3 onion に対応したことをお伝えしたが、その対応には、まだ不備があるかもしれない。

具体的なことは後日に譲るとして、「がっかり・ショック」というよりは「やっぱりね」と感じた。

前回も書いたように、ProtonMail については、過信せず「いいかげんな気持ちで」使うくらいでちょうどいいと思われる。本気で end-to-end のメール送受信をしたいなら、当たり前だが、余計な中間者を通さず、互いにローカルで鍵ペアを作って、直接、公開鍵を交換すればいい。そうすれば、どんないいかげんな回線経由でも、数学的にセキュアと信じられている通信(数学的なことなので誰かを信用する必要がない=ただしこれは「予想」であり「証明」はされていない)ができるし、現在の Thunderbird では OpenPGP が最初から付属していて、一般ユーザーでも GUI を使って簡単に操作できる。

大企業などがユーザーの一挙一動を追跡する傾向が増している現在のインターネット。プライバシーに注意を払うのは、もちろん良いこと。とはいえ、一般ユーザーから見ると、自分で鍵交換することは面倒と感じるかもしれない。

そういう意味では、一般ユーザーでも手軽に使える Tor Browser(ブラウザ)、DuckDuckGo(検索エンジン)、ProtonMail(ウェブメール)などを少しずつ生活に取り入れてみるのは、最初の一歩としてお勧めできる(お金はかからないし、嫌ならいつでもやめればいい)。仲間に言わせれば「DDG がまだ続いていることは奇跡」。ちなみに Startpage という手もあるが、あれは羊の皮をかぶった Google にすぎない(Ixquick の時代には独自だったが…)。Google を使いたいのなら、Startpage より SearX の方がいくらかましかも…。

G を使うということは、基本的に「G が見せたいページに誘導される」「あなた個人が満足すると推定されるページ(あなた個人の趣味・思想に合ったページ)に誘導される」ということで、それだけだと、プライバシーの問題は別にしても、物事を高所から多角的に見ることができなくなる心配もある。

Proton を完全に匿名で使いたい場合、「アカウントを作るときにメアドを入れなければいけない」というジレンマが生じるかもしれない(プロバイダのメアドなどを入力したら、全然匿名にならないよね)。回避手順は次の通り。ウェブメールでは一貫して Tor Browser を使い、まず Cockmail のメールアカウントを作って、Proton にサインアップするとき Cockmail で確認メールを受信。この方法だと、個人情報を何も渡さず、一度も生IPを見せずにウェブメールを使える。もちろん直接接続する Tor の入り口ノードには生IPがばれるし、「注文のご確認。お届け先住所・お名前」みたいなメールを受信したら、まあ、あんまり意味ないかな…。

だからやっぱり最初のうちは「プロトンには生IPを見られてもいいや、グーグルよりはましでしょ」くらいのいいかげんな割り切りが大切なのかもしれない。何ならブラウザを分けて、クリアネットの普通用ウェブメールと、オニオン経由の匿名ウェブメールと、2個アカウントを作ってもいいかも。「身元を隠すのは怪しい行為」という洗脳から自らを解き放ち、「余計な個人情報をばらまかない方がいいに決まっている」という基本に立ち返ろう。

そもそもユーザーが何もしなくても、メーラーが自動的・透過的に OpenPGP を使うようになってもいいようなものだが…。どうやらリアルワールドとかいう場所には、「メールを中間で読めないと困る人々」というのがいるらしく、有形無形の…あれ、誰か来た

2021-06-25 「ProtonMail は終わった」 …というのは極論としても

プライバシー重視のユーザーに人気の ProtonMail。自分も少し前まで、親しい人に勧めたりしていたのだが…。具体的に何が問題か記す。

理想は .onion 経由の接続。onion は v2 から v3 へ移行中。プロトンも v3 に移行したのだが…

v3 のログインページを開くと、スクリプト経由の分かりにくい形で
https://protonirockerxow.onion/assets/host.png
という v2 アドレスから画像が呼ばれる(大げさに言えばクロスドメイン)。まずこれだけでもテスト不足で、v2 が廃止されたらエラーになるけど、悪いニュースはその先。

この呼び出される画像は、1×1 ピクセルの透過GIF。一般人にはピンとこないかもしれないが、トラッキングが嫌な人にとって、典型的な悪い兆候。しかも GIF の拡張子が不正に .png になっている。善意に解釈しても「細部がおろそか」、悪く解釈すれば「ばれにくくしている」。友人いわく「終わったな…。プライバシーやセキュリティーはセールストーク。中身が伴っていない」。そのことは前から分かっていことで「終わったな」とまでは思わないけど…

しかもプロトンの .onion は v2 時代から「Too many recent login attempts」エラーで、ログイン拒否されることが少なくなかった。このエラーは v3 になっても続いている。onionサポートといっても、エラーが出てクリアネットに誘導されてしまうことがある(クリアネットでも Tor 経由で使えることには変わりない)。なぜこうなるのか理解はできるが、クリアネットからの連続アクセス攻撃(ブロックされても仕方ない)と、ダークネットからの大量アクセス(仕様上、自然に起こり得る)を同じように扱うことには、疑問もある。.onion はいろいろあるが、この手のエラーが出るのはプロトンだけ。

さらに(これは何かの偶発的なことと信じたいが)、Proton を開いたとき何とグーグルの JS が呼び出された経験が1回ある。脱グーグルでプロトンに行ったユーザーにとって、これは不穏。

画像
以前 NoScript が Google からのスクリプトをブロックした瞬間のスクショ。1回だけで再現性はなかった。

ところで前回「プロトンのサインアップでメアド記入が必須だったら Cockmail を使えばいい」と書いたが、残念ながら、Cockmail は現在、新規ユーザーの受け入れを中止している。でも、これは大した問題ではない。disposable email で検索すれば、いくらでも答えが見つかるはず。

いまだにダークネットのネガキャン(怪しいとか犯罪絡みとか)をやってる人もいるが、The Washington Post の SecureDrop も v3 onion を使っているし、DDG は当然 v3 onion 対応。前者は
https://vfnmxpa6fo4jdpyq3yneqhglluweax2uclvxkytfpmpkp5rsl75ir5qd.onion/
後者は
https://duckduckgogg42xjoc72x3sjasowoarfbgcmvfimaftt6twagswzczad.onion/
https://duckduckgogg42xjoc72x3sjasowoarfbgcmvfimaftt6twagswzczad.onion/html/

従来型有名メディアのワシントンポストや、有名検索エンジンも採用している…と言えば、権威に弱い日本人、少しは考え直してくれるだろうか…?

2021-06-26 ProtonMail からの乗り換え先 プライバシー重視のウェブメール

(参考リンク)2021年6月20日 Is protonmail secure and reliable? : privacytoolsIO (reddit)

ProtonMail は終わっていないが、「大きくなり過ぎて」しまった面がある。プライバシー志向のサービスが大きくなるのは、本来的には良いことなのだが…

既存のウェブメールを使いたいとして、プロトンからも出たくなった場合のことを考えてみた。実際に幾つか試してみた。

以下で紹介するウェブメールは、どれも個人情報不要でサインアップでき、Tor 利用可。

(1) ドイツの Tutanota はプロトンに継ぐ中堅として、よく名前が挙がる。無料で使え、有料バージョンでは独自ドメインも使えるが、プロトンより格安。Tor 経由でサインアップすると、数日の待機期間があるようだ(スパマー対策だろう)。サインアップのとき、プロトンと違い、何の個人情報(別のメアドなど)も求められない。プロトンの予備、そしてプロトンで匿名サインアップするための匿名メアドとして利用可能か。

ホームページでは「世界で一番セキュアなメール」のような宣伝文句を書いている。そのようなことを書く業者は基本的には信用できないが、宣伝トークと受け流すしかない。

(2) 同じドイツの posteo.de。有料だが、格安(月1ユーロ、12カ月先払いだが途中解約で返金可)。デフォのメアドは「名前@posteo.net」、追加料金なしのエイリアスで各国のドメインも使える(別の名前@posteo.jp も選択可)。この会社は顧客の個人情報を見ないように、手間を掛けて意識的努力をしている(「知らない情報については、万一命令されても提出しようがない」というロジック)。クレカ払いでは、住所・電話番号どころか、名前の入力も不要だった。プリペイド方式のクレカで払えば、客側から見てもほぼ完全匿名。ウェブメールだけでなく、メーラーからも使える(IMAPで同期可)。ヘルプなどのインターフェースはドイツ語・英語・フランス語。

Tor については特別な記述がなかったが、Tor Browser からも問題なく使えた。そもそもIP自体を見ていないのだろう。直観的には一番気に入ったけど、透明性レポートの更新が滞っている。勢いが落ちているのかもしれない。EU の法制度の変化の影響も受けている。少し前の透明性レポートによると、当局からの情報提供要請は月20件程度、ほとんどがドイツ国内からの命令(国外からの要請は少ない)。会社側の対応は、大部分「その情報は保持していないので、協力不可能」。ドイツ以外のユーザーが、令状や協力要請によってデータを開示されてしまう可能性は非常に低い。犯罪などと関係ない日常的なメールのユーザーなら、がっちりガードしてもらえそう。

(3) オランダの disroot.org は無料で使えて、脱中心をキーワードにしている。ウェブメールだけでなく、メーラー経由も無料らしい(プロトンだと確か有料)。商売というより、とがったコミュニティーのような感じ。Tor でサインアップしたら、実際に使えるようになるまで1日程度の待機期間があった。登録完了のお知らせを見たら、エイリアスに @getgoogleoff.me があって、ちょっと笑えた(ベタ過ぎ)。ログインページでは「このサービスはセキュアですが、常に注意深く、GPG end-to-end encryption を併用することをお勧めします」と注意喚起している。「暗号化しているので安全です」といかれたことを言うプロトンやトゥータ・ノータと違い、常識的。Cockmail に至っては(新規受け付けを中止してしまったが)、FAQ で「あなたを信用できるという証拠は?」「信用できません。その気になれば、私はあなたのメールを読み放題です」と、メールプロバイダー視点の事実をありのままに述べていた。

(4) CTemplar.com。明示的に Tor-friendly だが、無料プランは紹介制なので試さなかった。真剣にプライバシーを考えているサービスにおいて、Tor-friendly は基本の必須条件で、セールスポイントではない。

きちんとした v3 onion を持っていることや、プライバシーポリシーにおいては Proton の上を行くが、費用が高い。

(5) mailbox.org。これは駄目。キャプチャがグーグル。ユーザーの求めるものが見えていない。有料プランのみだが、30日のお試し期間があるため、何も払わないで解約か放置すれば、実質、30日無料で使える。ドメインを持ってる人は、DNS をいじると、ここと連携させられる?(このサービスは普通は有料なので、1~2回だけそのメアドを有効にしたい場合には、有用かも。ホスティング会社と契約する必要もない。ただメアドの転送サービスくらいは、もともとレジストラが無料で提供してくれることもあるだろう)。

***

メールを使う上で一番困るのは、実際に使っているメアドが削除されてしまったり、突然使えなくなったりすること。この心配の原因は「メアドのユーザーが、メアドのドメインを所有していない」という力関係。抜本的対策としては、ドメインを自分で所有して、自分でDNSを管理するという選択肢がある。そうすれば、サーバーがつぶれても、別のサーバーでメアドを使い続けることができるし、「好きな名前@自分のドメイン」のメアドを無限に作れる。ドメインの値段は、そんなに高くない(種類にもよるが、普通は年間1000円~5000円程度)。オランダには無料でドメインを提供してくれる会社もある(いつ終了するか分からないので、一般用としてはお勧めできないが、一時的な使用ならいいかも)。ドメインがあれば、自前のブログやウィキ等も自由に運営でき、業者と契約する必要がない。

しかし一般論として、ドメインを所有するためには、登録業者に個人情報を渡さなくてはならない(Whois上では代理公開してもらえるが)。ここでは「余計な個人情報を出さないで使えるウェブメール」が理想なので、それだけのために、わざわざドメインを登録するのは、本末転倒だろう。匿名でのドメイン登録という概念もあるが、一般向けとは言い難い。

「プロトンからの乗り換え先」がこのメモのテーマだけど、とりあえず ProtonMail を試してみても損はない(無料だし、グーグルではないので)。もし違和感を覚えたら、Tutanota を試してみてもいいだろう。これも無料だし、プロトンと違い、サインアップにメアドすら必要ない。disroot.org は無料だが、癖がある。posteo.de は格安だが、無料ではない。

他にも同種のサービスはあるだろうから、探してみよう。何がベストかは人それぞれ。グーグルに監視されないリラックスした生活を楽しもう。

2021-09-01 メール・プロバイダの安全性 あなたのメアドは何点? 定量的分析の一例

Test your email のフォームに、テストしたいメアドの @ より後ろの部分を入れて、Start test をクリックするだけ: https://internet.nl/(オランダの公共的な組織)

ネット上で安全(セキュリティー)は基本だが、それは簡単な概念ではない。大きく分けると:

上記のテストは、前者をチェックするもの。技術的には「この通信は暗号化されているので安全」のはずでも、実際には…

…といった問題があり得る。実際、いくらSSLでも、怪しげなページで個人情報やクレカ番号を入力したくないだろう。

技術的セキュリティーだけで安全性を測るのは、かえって誤解の原因になる。分析の方法も特に規格があるわけでなく、点数化は一つの目安にすぎない。そのことを理解した上で、以下のデータを見てほしい。

Cock.li
38点 https://internet.nl/mail/cock.li/574926/
mailbox.org
71点 https://internet.nl/mail/mailbox.org/574929/
ProtonMail
75点 https://internet.nl/mail/protonmail.com/574916/
posteo.de
81点 https://internet.nl/mail/posteo.de/574558/
disroot.org
85点 https://internet.nl/mail/disroot.org/574912/
CTemplar
87点 https://internet.nl/mail/ctemplar.com/574923/
TutaNota
87点 https://internet.nl/mail/tutanota.com/574963/

以上は、「ProtonMail からの乗り換え先 プライバシー重視のウェブメール」で言及したメール・プロバイダについて、Internet.nl によってスコアリングしたもの。このような技術的評価だけで総合判定はできないが、「プロトンメールは悪化している?」という直観は、技術的にも正しかったようだ。プロトンからの乗り換え先として「mailbox.org は駄目」と断定したが、こうして見ると、技術的評価でもプロトンよりさらに下であり、乗り換え先として適さないことが分かる。

Cock.li は極めて低い点数であり、メールサーバーにつなげて日常的に使うような「普通」の用途には向いていない。このサービスは、大ざっぱにいえば、半分使い捨て感覚の完全匿名メアド。「プロバのログに足跡を残さず、プロバ提供のDNSも使わず、.onion経由でさらにGPGでやり取りするような人」でなければ、使う意味がない。逆にそういうユーザーにとっては、チャンネル自体はいいかげんで盗聴され放題でも、暗号学的な安全性が高い。いずれにしても、完全招待制に移行したので、今から始める人には使いようがないため、考察対象外とする。

プロトンは定番なので、説明するまでもないだろう。グーグルから脱出した人が最初に使うデフォルトだろうが、その定番に陰りが見えているというのが本題だった。

ドイツの posteo.de の技術評価は、そう悪くない。満点でない大きな理由は IPv6 サポートの不足。評価しているのがオランダの組織、オランダはIPv6移行の先進国なので、IPv6サポートが第一の評価ポイントとなっている。指摘されているもう一つの欠点は、スパムや詐欺メールの送信元になることへの危惧。技術的にはDMARCポリシーが不十分と判定された。実際問題どうかというと、有料サービスなので、無料メアドに比べればスパマーに使われにくいだろうが、個人情報を一切尋ねず保管もしないこと、ログを残さないことなどから、悪事にも利用可能という面は否めない。プライバシー尊重型サービスのジレンマ(悪事を完全になくすには常時監視が必要だが、プライバシー志向の善意のユーザーは監視されたくない)。古いTLSバージョンでも通信ができることも、欠点として指摘されている。実際には、ユーザーごとの設定で、セキュアでないサーバーとのメール送受信を拒絶するようにできるのだが、デフォでは拒絶していない。

posteo.de で好感度が高いのは、サポートが普通にGPGに対応していること。こちらの公開鍵を添付してOpenPGPのメールを送ると、OpenPGPで返事が来る。公開鍵の公開すらしていないプロトンとは、比べものにならず、実際、ドイツではかなり人気が高い。

オランダの disroot.org はメール会社というより個人が趣味でやっているようなサービスだが、同じくらいの点数。実用上の大きな違いは、posteo.de は有料、disroot.org は無料ということだろう。有料サービスは、決済のときにどうしても直接・間接に個人情報のやり取りが発生する。暗号通貨決済ならまた別だが、今の一般ユーザーにとって「暗号通貨を匿名でゲットすること」は困難であり、暗号通貨購入のときに個人情報のやり取りが発生するので、結局同じこと。posteo は、この決済問題の解決に並々ならぬ努力をしていて、極端な話、ドイツにいる人なら「店頭で現金払い」もできるようになっている。

CTemplar は、やや点数も高いが、料金も高い。しかも2021年7月に致命的なシステム障害が起きた。
https://old.reddit.com/r/ctemplar/comments/oh3xj4/system_failure_issue/
CTemplar の料金を払うくらいなら、ドメインを取って、自分で直接サーバーを管理した方が手っ取り早いと思われる。

無料や格安のメールサービスは、星の数ほどあるが、上記で紹介したのは、その中でもTorフレンドリーのもの。Cock.li、ProtonMail、CTemplar は、Tor専用の.onionアドレスを持っている(ただし、ProtonMail の場合、onionアクセスについて実際には制限がある)。Posteo.de は、フレンドリーというよりTorニュートラル(Torだからといって特別扱いもせず、拒絶もしない)。

結論として「オランダ視点の技術スコア」をベースにした判断では、TutaNota が最も良い。確かに、Protonからの乗り換え先としては、常識的にも TutaNota が第一選択肢だろう。ただ実際のところ、ユーザーごとに求めるものは違っていて、どのサービスも、試しに使ってみないとフィーリングがつかめない。基本的に「このサービスを使えば絶対安全」というようなことはないし、前述のように、純粋にインターネット上の技術面だけで判断するのではなく、いろいろな要素を考え合わせる必要がある。あくまで参考までに…

2021-09-06 ProtonMail「地上げ反対」のメール・プライバシー守れず 同社だけの問題ではない

ProtonMail logged IP address of French activist after order by Swiss authorities | TechCrunch(2021年9月6日)

「プライバシー志向のセキュアなメール」という触れ込みのスイス ProtonMail(以下「プロトン」)が、フランスの社会運動家のIPアドレスなどを当局に提供していたことが分かり、波紋を呼んでいる。しかし、悪いのはプロトン、と言い切れない面がある。

被害にあったグループだが、「高級住宅地化」に反対する人々だったという。貧しい庶民や高齢者が多く住む地区から弱者を(事実上)立ち退かせ、しゃれた住宅街に再開発すること…。それ自体は「ゴチャゴチャした古い街が新しく生まれ変わる」のだから、悪いことばかりでもない。地区の美観やイメージの改善、経済の活性化、そして政治側から見れば税収の増加も見込まれる。半面、家賃が払えなくなってそこに住めなくなる人々から見れば、うれいしことではない。要するに「地上げ」なので、抵抗が生じるのも予想される。

再開発の是非はさておき、さしあたって問題なのは「反対運動をしているという理由から、通信の秘密を侵されていいのか?」ということだろう。

これがグーグルやヤフーならいつものことかもしれないが、世間は「プライバシーを売り物にするプロトン」と思っているため、ちょっとした騒ぎとなり、こうしてニュースとなった。

「地上げ反対」が嫌がらせに遭うことは、分かり切っている。そういう活動をする人々自身も、もっと気を付けるべきだったのではないか。プロトンの宣伝をうのみにせず、少なくとも生IPでアクセスしないという基本を守っていれば、こんなことにはならなかったのでは…。上記記事中でも、プロトン自身が「VPNやTorを使っていれば良かったのに」と示唆している。プロトン視点では、裁判所から正式な命令が来たら、情報を開示しないわけにはいかない。ポステオだったら、抵抗して裁判で争ってくれるかもしれないケースだが、大企業のプロトンが一人の無料ユーザーのためにそこまでしてくれるわけないのは、常識で分かるだろう。

むしろ嫌な感じなのは、何で「地上げ反対」くらいで、裁判所が開示命令を出すのか…。それも国内問題ならともかく、フランスからスイスに正式協力要請というのは…。誘拐事件や爆破予告なら話は分かるが、再開発反対なんて、盗聴までして取り締まるような案件ではない。プロトンを過信したユーザーにも問題があるし、プロトン自身も一切抵抗せず格好悪いけど、フランス&スイスの裁判所の決定が不穏(例えばアイスランドだったら、裁判所が開示請求自体を門前払いしていたのでは…)。

プロトンが開示請求に従った数は、2017年にはたった23件だったが、2020年には3000件を超え、この勢いだと、今年2021年には1万件を超えるかもしれない。プロトンは、大きくなり過ぎてしまった。BitTorrent用のVPNを提供するなど、商売っ気を出して調子に乗り過ぎている。規制の口実にされるようなことすると、結局、善意のユーザーが迷惑する。しかしそれはメールと関係ないこと。スイスの司法側も、悪い方向へ変わってきてるのか…。

これからの時代、やはり中間の誰か(この例ではプロトン)を信用するのは、危険が大きい。公開鍵を通信相手と(安全なチャンネルで)交換し、送信元のローカルで暗号化して、受信側で復号する。秘密鍵は絶対にローカルから出さず、中間の誰かに「暗号化代行」をさせない。デリケートな通信であるなら、利便性ばかりを追求せず、そうした基本に立ち返る必要がある。

直接会ってメアドを交換するとき、ついでに公開鍵も交換したって、大して手間は変わらない。「メールというのはアドレスと鍵を交換して行うもの」というのが常識になり、全部のメーラーが当たり前にオープンソースの非対称暗号をサポートするようになれば、そもそもプロトンなんか要らない。なぜそうならないのか…というと、やはり各国のお偉いさんは「一般庶民にセキュアな通信をしてほしくない=裏口や監視窓口を作っておきたい」と考えているからだろう。一方ではネット上での安全性を確保しましょうと言いつつ、数学的な安全性の高い手法を普及させようとしない。公的なサイトのくせにTorをブロックしたり(ある意味、自分たちはDDoSを防げない脆弱サイトですと告白しているようなもの)、公的サイトや銀行のサイトなのに、サードパーティーのスクリプトやアイコンや地図やアクセス解析を平気で読み込んだり、プライバシーやセキュリティーの観点からは、めちゃくちゃなことが多い。

このままではいずれ大変なことになるが、だからといって、息苦しい監視社会になってほしくない。ユーザー側が一歩先・二歩先・三歩先を考えること、監視されたくないからこそ、決して匿名化技術を悪用しないこと(規制の口実を与えないこと)が、大切だと思われる。個人情報を既に登録しているサイト、本名でメールを受け取ってるメールプロバに、匿名的にログインするのは無意味であり、基本的には逆効果。「こうすればOK」というような簡単な解決法はない。

2021-09-08 ProtonMailで接続IPを記録しない設定(参考)

ProtonMail の Security では、デフォルトで Security logs が有効になっている場合がある。

必要なければ、設定上、このログを無効にできる(ログが既にある場合、併せて手動でワイプできる)。

設定画面の説明によると「You can enable authentication logging to see when your account is accessed, and from which IP. We will record the IP address that accesses the account and the time, as well as failed attempts.」

この設定は「IPのロギングを明示的に許可する」という意味合いを持つ。オフにしても「ロギングを禁止する」になる保証はない。プロトンは匿名利用可のサービスなので、接続元を知らせたくないなら、プロキシ経由でサインアップして、常にプロキシ経由でログインすればいい。

匿名で利用できるからといって、プライバシーが保たれるわけではない。「第三者に知られたくないプライベートな話」や「漏洩すると困る情報」については、極力メールでやり取りしない方がいい。プレーンテキストのメールというのは「はがき」のようなもの。可能性の問題として、通信経路のあらゆる場所で、簡単に盗み読みされてしまう。OpenPGP を使ったとしても、依然としてメタデータが丸見え。

2021-07-16 アボガドロ定数の音楽 6020垓(がい) 602 sextillion

現在のアボガドロ定数は、定義上の数。昔は「観測によって決定される数」だった。
  N := 602214076000000000000000 (定義値)
これを7進表記して、0~6にドレミファソラシを当てはめてみると…

アボガドロの歌(7進法)
1211 0246 65 レミレレ・ドミソシ・シラ~~
1131 454     レレファレ・ソラソ~
1652 034     レシラミ・ドファソ~
24305       ミ~ソ~ファ~ ドラ~

なかなかメロディアス。

さて、この数は64ビット整数で表現可能でしょうか?

264 は、およそ 18 × 1018(覚えやすい)、つまり 1.8 × 1019 のオーダー。

アボガドロ定数は 6.02 × 1023 のオーダー。64ビットには収まらず、10進で4桁オーバー。

ところが 279 ≈ 6.04 × 1023 なので、この定数は2の79乗に非常に近い。より正確に言うと:
  log2 N = 78.994622…

アボガドロ定数に「宇宙の秘密」が隠されているとしたら(妄想)、宇宙のワードは79ビットということになる。

アボガドロ定数のビットバターンは、かわいい。高らかにミの8連発から始まって、レの連打で終わるところなど、素敵でしょう(便宜上、0をレ、1をミとする)。

アボガドロの歌(バイナリー) 0x7f86 17295f14 5cc60000
 111 1111 1000 0110  ミミミ・ミミミミ ミレレレ・レミミレ
0001 0111 0010 1001 レレレミ・レミミミ レレミレ・ミレレミ
0101 1111 0001 0100 レミレミ・ミミミミ レレレミ・レミレレ
0101 1100 1100 0110 レミレミ・ミミレレ・ミミレレ・レミミレ
0000 0000 0000 0000 レレレレ・レレレレ・レレレレ・レレレレ

末尾に0が並ぶ理由は、10進法の定義値でも末尾が0だらけだから。10進法で末尾に0が1個付くごとに、素因数2が1個(そして5が1個)増えるので、10進で末尾に0が並ぶ数は、2進でもそうなる。

先頭に1が並ぶ理由は、ある種の偶然だが、279よりわずかに小さい…ということ。279にイコールなら0x80からスタートだが、それより少し小さいので0x7fからスタートして、ビットが立ちまくっている。

2021-08-22 思い出の漫画(1) 岡田あーみん「ルナティック雑技団」

1980~90年代くらいは、少女漫画が急激に多様化して花開いた時期で、それをある程度リアルタイムで体験できたのは、幸せなことだった。

好きだった漫画家は、大島弓子、陸奥A子、岩館真理子、篠有紀子、めるへんめーかー、中山星香など…。今読み返してどうかは分からないが、幼心に波長が合ったのだろう。雑誌で言うと、最初に買ったのは週マ、それから、りぼん、LaLa、たまにそれ以外(別コミとか)も読んでた。

漫画好きが思い出話を始めると、延々ととりとめのない内容になるのが常。楽しそうに語られても、その漫画を知らない人には何のことやらサッパリだし、「この作品が琴線に触れた」みたいなことは、心の奥の秘密を明かすようで、ちょっぴり恥ずかしい気も…。照れ隠しに、今回はギャグ漫画家として知られる岡田あーみんの話。さくらももこと同時期にデビューした漫画家さんです。

岡田あーみんとの出会いのきっかけは、単純に「りぼん」を買ってたこと。もともとギャグ漫画が鋤(誤字)だったわけではないのだが、あるときから「りぼん」を買えば漏れなく岡田あーみんが付いてくるようになった。恐るべし、集英社のセット販売(笑)。いつの間にやら…「あなたの宗教は?」と聞かれると「あーみん様」と答えるような「一部の変なやつら」になってしまったのであった…

本題の「ルナティック雑技団」。今あらためて読み返すと…まあ面白いけど、だんだんネタ切れを起こして苦しくなってるな、と。「お父さんは…」と「こいつら…」の2連載での経験をベースにした岡田あーみんの最高到達地点には違いないのだが、「めちゃくちゃでもいいから、勢いがあった方がいい」という観点だと「こいつら…」あたりが一番面白いかも。紅白ねじりあめとか、ニセ商売屋とか…。ルナティックは、でも、やっぱ独特。
 学校なんかやめちゃって
 デカダン酔いしれ
 暮らさないか

 白い壁に「堕天使」って書いて!?

↑数多いあーみん名せりふの中でもトップクラスでしょう(笑)。普通の意味でのせりふ(作品内でキャラが話す言葉)ではなく、ルイというお調子者キャラの「脳内劇中劇」。自分が最初の3行を言って、主人公の女の子(ルイの片思いの相手)が同調して「白い壁に…」と答える…というシチュエーションを勝手に一人で妄想して、狂喜乱舞する。このフォーマットのルイの妄想には、他にも種類があって、どれも面白い。読んでると「すごいギャグだ」と爆笑しちゃうけど、作劇的には独特のメタ構造になっている。

ふん
 い…言っとき
 ますけどね
 私はあなたのこと
 なんか ちっとも
 ち―――っとも
 スキじゃないから

 大っ嫌いだから

↑ツンデレがテンプレ化された今でこそ、一見「ありがちなせりふ」とも思える。でも薫子(かおるこ)が片思いの相手の前でこの告白(?)を口にするのは、涙を流しながら。…ジョーっと音を立てて、小便を漏らしながら(笑)。それが、ギャグタッチではなく、少女漫画っぽいタッチで描かれてる。普通の少女漫画のように見えるコマと、あり得ない描写がシームレスに連続する。

薫子は後日、その男の子に「おともだちになってネ」と書いたカードを渡そうとするのだが、いざ渡す場面になると素直になれず…。雑草をむしって土ごと相手の顔に投げつけ「ふん」「あっかんべーだ」と叫び、走り去ってしまう。「おじょうさまの狂おしい愛情をわかっていただけたでしょうか?」という絶妙な解説付き(笑)。

相手が病気じゃ 怒るに 怒れないわ

↑これは意地悪役のママのせりふ。意地悪役なのに(ギャグをストーリー漫画として読んでしまう純真な子には、人気が悪かったらしい)、いじめる相手が病気になると、いたわってしまう。何げないせりふだが、あーみんの本質を垣間見ることができる。比較例として「悪魔の花嫁」には、病人相手に残酷な復讐をするエピソードあり。漫画ではないが「アイドル伝説えり子」に至っては、重体で意識不明の負傷者について、意地悪役の伯父が「美奈子が退院するときは、裏門からだよ」と恐ろしいことを言う。リアルにせよ物語にせよ、意地悪というのは、相手が病気になったから自動的に止まるわけでもない。ルナ雑は、そのどちらでもない「あーみん舞台」。ギャグのキャラたちが「少女漫画」を演じる劇中劇ともいえる。

あーみんはデビューしてわりとすぐ発展途上で消えてしまったこともあって、本領を発揮できていないのだが、それでも天才的素質がキラリと光る瞬間が多い。

ルナ雑は、ギャグの形式を取りつつ、緻密な心理描写や大胆な象徴的表現を含んでいる。例えば、ルイが学校の屋上からつり下がった状態で危険な「野外コンサート」を行うシーン。校長先生はびっくりして、止めようとするのだが…。校長が心配してるのは、子どもが落ちてけがをすることではなく、事故を報道されて自分の責任問題に発展すること。その微妙な心理が、たった1コマでさりげなく表現されている。一種の社会風刺ともいえる。「理想の家庭のイメージと現実のギャップ」のせいでおかしくなった母親が、自宅で火事を起こす場面は、表向きはクレイジーなギャグだが、シュールな現代詩ともいえる。大島弓子の「夏の終わりのト短調」をほうふつさせる。

岡田あーみんのギャグの裏にある作家性・人間洞察からすると、「ギャグ路線固定でなく、もともと描きたかったシリアス系を自由に描いてもらいたかった、それをもっと読んでみたかった」よーな気もする。あの頃、猫十字社という作家が「黒のもんもん組」というギャグと「小さなお茶会」というメルヘンを発表してたが、あーみんも自由な白泉社だったら、少女漫画の歴史が変わったかもしれない。集英社のりぼんでは、さくらももこと岡田あーみんが同時期にデビューし、同じ人(とんケチャのみーやん)が二人を担当していたらしい。この担当がさくらももこと結婚した結果…。想像だが、さくらは自由が利く立場になり、担当者は必然的にさくらをプッシュすることになるし、そっちに多くの時間をかけることになったので、結果的にあーみんは不利な立場になったのではないだろうか。岡田・さくらが別々の雑誌からデビューして、このもつれがなかったら…。あーみんが(現実のさくらももこのように)好きなことをやらせてもらえていたら、どうなっていただろう?

集英社が無理やり描かせたからこそ「こいつら」以降が存在する。結果的には、それで良かったのかもしれない。

むしろ刹那的だからこそ美しい…ということもある。さくらももこみたいになってしまうと、あって悪いわけではないが、別になくてもいい「サザエさん」的存在になってしまって…それもどうかな…と。

あの時代、集英社で仕事をしていて、消えてしまった天才には、内田善美もいる。どれかの単行本で「仕事をするコツは、自分の描きたいようにではなく、編集者の望むように描くこと」みたいな趣旨のぐちをこぼしていて、子ども心にも「漫画家さんってのは大変なんだなぁ」というのが伝わってきた。内田善美の場合、「星の時計…」や「草迷宮」などでやりたいことをやり尽くしたから、消えたのだ…という解釈もあるが、あれらは「記念碑的」な作品ではあっても、芸術的に完成されたものではなく、独り善がり…といって悪ければ…発展の余地があるものだった。「そこが本当の出発点となる乗り継ぎ駅」みたいな。

今のように、個人が勝手に自分のサイトで漫画を発表できるような状態だったら、内田善美のような人、そして「ギャグ漫画家としてではなく、自由な漫画家としての岡田あーみん」は、輝いていたかもしれない。天才性を感じさせつつ未完成のまま亡くなった漫画家には、他に花郁(かい)悠紀子さんがいた。「フェネラ、きみは、一人だ。人間じゃない、だが、妖精人でもない。飛ぶことも、地に足をつけることも、できない存在だ」…そんなせりふ書く作者がスーッといなくなってしまうことは、何か予定調和のようですらある。そういえば、内田善美も「消えてしまった人の話」を描き終え、自分が消えてしまったのだった…

注 ひょっとすると、このメモを読んであーみんを知り興味を持つ人もいるかもしれませんが、90%の確率で、お薦めできません(笑)。多感な時期に、不意討ちのようにりぼんに載ってたからこそ鮮烈な印象を受けるわけで、「この単行本は異色のギャグらしい」という心構えで大人が読んでも、あまり楽しめないでしょう。

2021-08-23 思い出の漫画(2) 岩館真理子「街も星もきみも」

寂しいという気持ちは、確かにある。でも人と付き合うのは疲れるので、一人の方が落ち着ける。

そんな切なさを、あわく繊細に描いた岩館真理子。

かってに
 あたしを
 あわれに
 思わないでほしいけど

 大勢で
 議論をかわせば
 あたしを救う答えが
 でるなんて

 本気で
 思ってるの?

孤立してるけど、別に苦悩してるわけでもないカム。…そう、仲間外れにされて困る・悩むのは「一度は仲間外れじゃなかった経験」を持つ人だけ。最初からそうだった人は単にそれが普通なので、「仲良しごっこ」を強要されると苦痛ですらある。

「集団に溶け込めない困った子」? 実際には、誰だって、そんな面がある。一人の時間を全く持ちたくない(1分でも一人でいるとおかしくなる)人がいたら、むしろ病的だろう。

非行少年のような一匹おおかみトオル登場。

淋しくて

 死にたく
 なるんだ
 ほんとうは

 ……って
 いったら
 しばらく
 いっしょに
 いてくれる気に
 ならない?

冗談めかしたトオルのそんな言葉に、カムは何も答えない。ただ無言でじっと見返す。唐突に、夢のようなシーン。星くずが散りばめられた不思議な星、寂しい駅、象徴的な汽車。遠くにビルがあるのを見て「この星にも、人が住んで、いるんだ。よかった」と安心する。

どこまでが夢で、どこまでが現実か分からないようなシーン。

現実のシーンに戻り、カムはトオルに小さなプレゼントを買ってもらう。それは両手のひらに載るくらいのサイズの箱で、振るとシャラシャラ音がするものが中に入っている。トオルはネックレスだろう、と予想する。カムは、箱を開けて確かめてみようとしない。

そんなすぐ
 あけちゃ
 つまんないもん

 このままの
 ほうが
 わくわくするもん

追われているトオル。逃走する。カムとある駅で落ち合う約束をして…。中間の夢幻のシーンに戻り、カムはその駅でいつまでも待っている。いつかきっとトオルが来て、そのとき箱を開けられる…。

わたしたちは
 ひとつの星の中
 夜になれば あなたにも わたしが
 見えるでしょう?

 だから
 淋しくないのよ

 トオル

カムの心の中のつぶやきだろうか。特にオチもなく、それで終わり。

「ねじ式」のような、見た夢をそのまま描いた感じ。断片的な小品。絵はそんなに緻密でないが、雰囲気がある。

「淋しくないのよ」は、誰へのメッセージなのだろう。

「何のために生きてるの?」「生きてれば、単行本未収録の続編がいつか出版されて、読むことができるかもしれないから」…なんてね。

2021-09-05 思い出の漫画(3) 篠有紀子「パラレル」

奇跡は 誰にでも
一度おきる
だが
おきたことには
誰も気がつかない

――楳図かずお「わたしは真悟」より

大島・萩尾・岩館などと比べると、篠有紀子は知名度の高い漫画家ではないが、代表作は「アルトの声の少女」だろう。花ゆめコミックスの中で、一番印象に残っているのは『さみしい夜の魚』収録の短編「パラレル」。

『さみしい夜の魚』は『わたしが人魚になった日』の篠有紀子バージョンみたいな雰囲気がある。

こわいことって
大好きなの

哀しいことも
好き

傷つけるのも
傷つけられるのも

……好きよ…

こーゆー感じ、かなり嫌いじゃない。

「パラレル」がやたらと記憶に残る理由の一つは、「音楽付き」ということ。バックグラウンドでサティーのあのジムノペディが静かに流れる(実際には「サティ」としか書いてないが…)。ここまで音楽がはっきり聞こえ、それが(単なるムード音楽でなく)物語の構成要素となっている漫画も珍しい。すごく仲が良くて、一つの世界を共有してる姉(えりな)と弟(秀)。えりなの方が成長して、やがて二人は世界を共有できなくなってしまう。成長物。切なく、ほろ苦い。

楳図かずおで言えば、さとると真鈴(まりん)…さすがに少女漫画で血が流れたりはしないが…。

こんなに美しいのに、こんなに完成されているのに、どうして今のままでいられないのだろう。

吉原幸子の詩に「近づいてくる変身の予感に かすかにおののきながら ふるい雛たちに(略)さよならを言う」という一節があるが、この「おののき」と「さよなら」を結晶化したような漫画だった。

Blue bell 摘んでた なんにも知らないで
でももうすぐあなたに触れてしまうかも
二度と帰れない
深い森 妖精のすみ家に
もう 目をとじても 遅い

――新居昭乃「妖精の死」より抜粋

大島弓子風に言えば、かさかさかさぶたの味。もがれた妖精の羽が、抜け切れず半分残ってる。

ところで以前、内田善美がどれかの単行本で…ということをチラッと書いたが、漫画の山を発掘調査(?)したところ、RMC『星くず色の船』の巻末と判明。「泣く泣くリボンのマンガスクールに投稿、3回目までは自分の好みで描いたけど、4回目はリボン好みで書いたら一等賞をくれた(マンガ家予備軍諸君これがひけつぞ!!)」とのこと。一般受け路線とは違う作家性の強い漫画家は、苦労が大きかったらしい。今でこそ、漫画・アニメは世界に売れると分かって「これは日本の文化。クール」とか言ってるけど…。小規模なサブカルだと中身がきちんと評価されないのに、お金になると分かったとたん、中身と関係なく正義ってことになっちゃうんだから、何ともゲンキンである。

楳図の言う「奇跡」は「自意識の目覚め」かもしれない。赤ん坊は「私」と考えない。「私」という意識の始まりは、ビッグバンのような特異点。「私」という意識が生まれたとたん、人は「私」にのみ込まれてしまう。「私」がなかった静かな時代を思い出せない。もともとそこから来て、やがてそこに帰るのにもかかわらず、つかの間の「私」を自分自身と信じ、疑わない…。

2021-08-25 パソコンとスマホ

今の時代は「高価な電話を持ってるのに、パソコンを持ってない人」が少なからずいるらしい。昔はモバイルでネットなんて、一部の物好きがやることだったが、いつの間にか少数派が多数派になってしまったのだろうか。

もちろん人それぞれ、個人の自由なのだが…電話は、何かを買って視聴したり遊んだりする消費側には良くても、文章をじっくり書いたり、何かを作ったりする道具ではないだろう。

for文やポインタのような基本的なことも知らず、スクリプトどころかHTMLの直打ちもできない人が、「私はウェブを使いこなす情報強者」というアイデンティティーを…

考えてみると「マシン語ネイティブの世代」から見れば、アセンブリやCなんかに頼るのも「ひよっこ」なのだろう。でも直接マシン語で書くなんて、効率が悪過ぎる。それと同じことで、別にタグを直打ちできなくても、もっと手軽に効率的に情報をやりとりできるなら、そっちの方がいいのかも…?

レイヤーの上昇…

↓このウェブコミックは、xkcd の「Singularity」。この作者の想像によると、コンピューターやAIが進化を遂げ、ついに「特異点」に達して「次の次元」へ行ってしまっても、スマホはそれに加わらず、取り残された人間側に味方してくれるらしい。しかしパソコンを失ってしょんぼりしている漫画の主人公(名前はないが通称Cueball)にとって、スマホはあってもなくてもいい存在で、慰めにならない。

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CC-BY-NC by xkcd.com/Randall Munroe, 2016(日本の漫画と逆に左から読んでください)

「おまえじゃ駄目なんだよ」と冷たいことを言わず、自意識を持つようになったスマホを傷つけないよう、一応の気配りをしているようだ。ちょっと優しい…。けど、スマホをいじるくらいなら、物理的な本の方がはるかにまし…なんだよね。

宗教ネタのジョークが分かりにくいかもしれないが、キリストが再臨して信者は天に昇る…みたいな話があって、その類推で、「AIが自意識に目覚めること」はオタクの天界(上部構造へのシフト)と呼ばれることがある。人間を置き去りにして、高い次元へ飛び去ってしまう…というコンセプトが、そのまんま「宙に浮かんで去っていくノートパソコン」として描かれている。

パソコンが飛び去って、人間とスマホが残されるという構図は、オタにとっては悲しい。オタク自身も「オタクの天界」には入れないらしい…。それどころか「AI支配の世界」は必然的に、超監視社会だろう。オタというのは、だいたい皆「知られたくない秘密」(積み荷を燃やして!)を持ってるものなので、一挙一動・全データを監視されるのは正直ありがたくない。

2021-08-26 依存症、みんなでなれば怖くない? あなたは、いくらもらえたら Win10 を使いますか

「この最新Win10マシンをもらってくれたら、10万円あげるから、Win10を使ってください」と言われても、もちろん断る。

100万円あげるから…だと微妙に迷うが、「Win10だけを使え」という条件なら、やっぱり断る。

1000万円あげるから…だと売れてしまうかも。自分のプライバシーを売り渡す値段は、100万~1000万のどこからしい。結構安っぽい…(笑)。「RSAがもう1024ビットじゃ駄目なのは、1000万円くらいのリソースでクラックされる可能性があるから」みたいな建前だったが、実際には1000万円あれば、プライベートキーを盗むまでもなく、かなりのユーザーは「直接買収」に応じるだろう。

一昔前は「コンピューター=オタクの世界」で、一般人には縁のないものだった。次第にインターネットを使うのは、当たり前、日常的なことになった。昔は確かに「変わり者」と見られ、差別とは言わないまでも、変な目で見られることもあっただろう…。今では逆に、コンピューターを使えないのは「不自由な人」ということになっている…。逆差別かもしれない。

時代の変化というのは、面白くもあり、恐ろしくもある。かつて各種マイノリティーの人々について、「はみだし者」「軽蔑されて当たり前」みたいな考え方があった。「マイノリティーであることが犯罪」という社会すらあった。ところが今では、そういう考え方は時代遅れで、「そんなことで差別するのは根本的な間違い」という認識が普通になっている。

一見素晴らしいことのようだが、ホントにそれでいいのだろうか? 逆にこっちから見ると「ほぼ全員がネット依存症やケータイ依存症のようになってしまい、みんながそうなので、多数決の原理によって、それが正常ということになっている」ような気もする。「依存症、みんなでなれば怖くない」?

実用上一番怖いのは、「コンピューターおたくもどき」になった現代人の多くが、セキュリティーやプライバシーに恐ろしく鈍感…ということ。ほとんどあらゆるものが、デフォルト設定でやりたい放題、覗き放題。手動で詳細設定してさえ、ほとんど手に負えないのに、平気で「同意する」人々。(申し訳程度に「プライバシーについて」という小さい文字のリンクがあるが、クリックしても、曖昧なことが分かりにくく書いてあるだけ)

今の Windows OS に関する限り、最大のセキュリティーホールは OS(特に自動更新)それ自体。だって強制的に遠隔操作され、運次第で起動しなくなったり、周辺機器が動かなくなったり…。相性問題は「パーツを自分で選べる自由さ」の代償とはいえ、一般人には荷が重い。

XPのときの「アクティベーション」でさえ「これは気持ち悪い」と本能的に嫌がられていたものだが…そういうコメントをよく見かけたが…今から思えば、XPなんて、のどかだった。XP/7 くらいまでは慣れれば我慢できる範囲として、それ以降、更新するたびに、どんどん使いにくくなっているという話を聞く。フリーソフトウェア(オープンソース)の立場からは、マイクロソフトのやってることは「追い風」とさえいえるだろう。

Linux の世界では、ユーザーが OS を所有する。マイクロソフトWindowsでは、OS がユーザーを所有する。誇張でも比喩でもなく、文字通りそうなので、しゃれにならない。

Apple信者は、Appleを使いたくて使っているわけで(これは歴史的に理解できる)、それで幸せなんだろうけど、Windowsを心から使いたくて使っている人がどれだけいるのだろうか。「仕事や環境の都合で成り行き的に使っているだけで、必要なソフトが別のOS上で動くなら、Windowsでなくてもいい」という人の方が多いのではないだろうか。


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