チラ裏バッファ: 数学3

チラ裏」は、きちんとまとまった記事ではなく、断片的なメモです。

2021-02-21 幾何学的アプローチの長所と短所

指数関数の定義として、教科書的には次の形が代表的だろう。数学オタクにとっては当たり前の見慣れた式だが、普通の人にとっては「理解不能」に近い怖い形かもしれない。

この他、無限級数を使った定義もよく見掛けるし、「微分して自分自身になる関数」という特徴付けを定義にすることもできるだろうが…。多くの人にとって、e は、訳の分からない数。使っているうちに何となくその性質・重要性がのみ込めてきて、やがて慣れてしまい「そういうものだ」と疑問を抱かなくなる。π にも、そういう面があるかもしれない。

それでいいのだろうか? 数学とは論理と直観のはず。「慣れれば分かる」などという、あやふやなことでいいわけない!

訳の分からないものを天下り的に導入して「使ってればそのうち分かるから」とか「とにかく公式を暗記しろ」とかいうアプローチでは、数学が「暗記科目」と誤解され、嫌われる原因になる。

一方、逆数のグラフの曲線の下の面積を考えることで、具体的に目に見える形で e を導入することは難しくない。対数の性質を「面積の足し算」として直観的に納得したり、e の値を自力で計算したり、幾何学的定義が「極限を使った普通の定義」と同値であることを確かめたりすることは、有意義だろう。

シェルバトフの薄い本を読んで、強い感銘を受けたが、同時に短所もあると感じた。第一に、幾何学的証明にありがちなことだが「確かにそうなる。でも、その巧妙な作図をどうやって思い付けばいいのか」。…天下り的な定義がない半面、天下り的な作図がある。第二に、数学的に厳密でない点。第三に「計算は正しいが、そのやり方は野暮ったい」という部分。第二・第三は「一般向けの啓蒙書」という性質上(きっちりした数学の専門書ではない)、当然かもしれない。むしろ「エレガント過ぎる」教科書より、多少泥くさくても実直・丁寧な方が、一般読者にはありがたい。

対数関数に関する限り、第一の問題はない。自然な作図、自然な問題意識から、スムーズに議論を展開できる。

幾何・解析のどちらにも長所があるのだから、両方のやり方をうまくミックスすれば、分かりやすく魅力的になる。今の普通のやり方は、何から何までやたらと解析的過ぎる。幾何学的方法をメインに、同じことを再構築するのは、何より自分自身の勉強になるし、興味ある読者にとって、何かの参考になるかもしれない。ただ…上記の第二の問題点は根深い。双曲回転が面積を保存することは、直観的には明らかだが、厳密に考えると面積の定義・積分の定義に依存することだろう。そうすると「幾何学的アプローチ」は、幾何のベールをまとった解析にすぎない。「フォーマルで厳密な数学」ではなく「それを直観的に理解するための、インフォーマルな作図」…というのがその本質かもしれない。

幾何学的アプローチだと、複素変数を考えることが(不可能ではないにせよ)困難。どっちにしても、どこかで解析にスイッチするしかない。でも、インフォーマルな「理解の補助」としても、同じ事柄を別方向から眺めて理解を深める点でも、幾何学的アプローチは、効果抜群だと思われる。

チラ裏」は、きちんとまとまった記事ではなく、断片的なメモです。


2021-02-11 目分量で面積を 対数法則の可視化(準備・前編)

青は y = 1/x のグラフ。「逆数のグラフ」ですが、45°回転させれば、黄緑を軸とする双曲線。というより、「逆数のグラフ」は双曲線。

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曲線とx軸に挟まれた部分(色付き)の面積を目分量で。

x=1 から x=2 の範囲 水色の正方形が14マス。黄色の約3マスはちょん切れてますが、合わせて2マス分くらい。オレンジの2マスもちょん切れてますが、合わせて1マス分よりは大きい。目分量で 1.3~1.4 マス相当か…。合計17マス少々。

x=2 から x=4 の範囲 黄緑がほぼ13マス(角が微妙に欠けてるが…)。黄色は合わせて1マス分より微妙に大きい感じ。…ここまでで、計14マス。さて、オレンジの6マスは全部ちょん切れてますが、6連続オレンジの左端と右端、左から2番目と右から2番目…というふうにペアにすると、どのペアも二つで1マス分くらい。なので、このオレンジは計3マス相当。…ここまでで、計17マス。残るはピンクですが、目分量で 0.3~0.4マスくらいの面積。…やっぱり合計17マス少々。

25マスで面積1なので、どちらの面積もざっと 17.5/25 = 0.7 くらい。x = A から y = B までの(A ≤ B)曲線の下の面積は、A, B の値と関係なく、A と B の比によって決まる(上の例では、どちらも A:B = 1:2)。単純だけど、面白い現象。例えば x=0.8 から x=1.6 の区間でも、x=1.2 から x=2.4 の区間でも、数えてみると面積は17マス少々。

証明も大事だけど、目分量で感覚をつかむのも悪くないでしょう…。

2021-02-13 面積が同じ訳 対数法則の可視化(準備・後編)

曲線は y = 1/x のグラフ。前回、曲線下の x=1 から x=2 の領域と、x=2 から x=4 の領域が、どちらも17マス少々であることを観察した。升目を数えて目分量で(笑)。

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PQBA と QRCB の面積が等しい理由は、単純(説明の都合上、前回とは色分けを変えています)。

まず水色と黄緑が同じ面積なのは明白。水色→黄緑の変換は、幅を2倍にして高さを1/2倍にしている。一般に、図形の幅を k 倍、高さを 1/k 倍にしても、面積は変わらない。

同じ理由から、左側のグレーの領域と右側のグレーの領域は面積が同じ。左側のピンクの領域と右側のピンクの領域も面積は同じ。

縦を半分に圧縮したら面積は半分になるけど、その後で横を2倍に引き伸ばしたら面積は2倍に増えて、トータルではプラマイゼロでしょ?

だって、それが面積の定義(積分の性質)だもん。

要するに、座標 (x, y) を座標 (kx, y/k) に移す変換(双曲回転)では、図形の面積は不変。「回転」と呼ぶ理由は、双曲線上の弧 PQ が弧 QR に「滑り台のようにスライド」するから。(この例では、高さが半分・幅が2倍になる変換なので、Q の移動先 R は x=3 ではなく x=4。)

…この話の進め方は、シェルバトフの受け売り。シェルバトフは、最初にこの種の変換を定義して、その基本的性質を確認してから、それをツールに双曲線関数・対数関数・指数関数を説明する。

例えば、上記の画像では、面積1の正方形が25マスのグリッドになっている…。x=1 から 2 までで色付きの面積は17マス少々、x=3 までで27マスくらい。その間のどこかで、ちょうど25マス分(つまり面積1)になる地点がある。目分量でも 2.6 と 2.8 の間であることが分かる。

「半径1の円の面積を π と定義する」ように「上記の曲線下の色付き面積が1になるときのxを e と定義する」。それは 1/x の積分を使って e を定義しただけで、数学的には何でもないことだが、感覚の問題として「この長さが e ですよ」と目に見えるのがいい。

シェルバトフの本に書かれている内容は、事実としては当たり前のことが多い。e が約2.7であることを知って、驚く人はあまりいないだろう。けれど、それらの事実を結び付ける話の進め方が面白い。特に圧巻なのは、cosh t のようなものを「幾何学的に」定義して、それが (et + e−t)/2 であることをシンプルな作図で導いてしまうところ。よくこんな作図を思い付くなぁ…

ところで「○○では、コンピューターは人間にかなわない」ということが、繰り返し言われてきた(○○=チェス、将棋、囲碁、会話、翻訳、芸術など)。しかし、だんだんそうも言っていられない状況になってきた。

このままAIが進化を続けると、そのうち数学の研究でも「人間のプロの数学者が、コンピューターに勝てなくなる」のではないだろうか? 例えば、コンピューターがフェルマーの最終定理を「自力で」証明したり、もっとすごい定理を「自力で」発見したりするようになっても、原理的にはおかしくない。

2021-02-17 対数法則の可視化 シェルバトフの名著を読む (4)

引き続き、逆数のグラフ y = 1/x の曲線。前回、曲線下の x=1 から x=2 の領域と、x=2 から x=4 の領域が、等しい面積を持つ理由を考えた。「k を正の定数として、ある図形の幅を k 倍すれば面積が k 倍になり、その図形の高さを 1/k 倍すれば面積が 1/k 倍になるから、その両方を行えば、面積は最初のまま」という単純明快な理由だった。

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x=1 から x=2 の領域(図の PQBA)の面積を M(1, 2) として、x=2 から x=4 の領域(QRCB)の面積を M(2, 4) とすると:
M(1, 2) = M(2, 4)
ここで M は Menseki という意味。一般に、曲線下の x=s から x=t の領域(s, t は s < t を満たす任意の正の数)の面積を M(s, t) とすると:
M(s, t) = M(2s, 2t)

理由は次の通り。まず、M(2s, 2t) の領域は、M(s, t) の領域と比べて、幅が2倍になっている。なぜなら 2t − 2s = 2(t − s)。

さて、領域の「上側の境界」は y = 1/x の曲線なので、M(s, t) の領域について、左端の高さ(つまりy座標)は 1/s、右端の高さは 1/t。同様に、M(2s, 2t) の領域について、左端の高さは 1/(2s)、右端の高さは 1/(2t)。これは、領域の高さが、左端でも右端でも 1/2 になっていることを意味する。そればかりか、M(s, t) 領域において s と t の間にある任意の数 s+d を考えると、x軸上において、(s+d, 0) は、領域の左下端 (s, 0) から距離 d の点。M(2s, 2t) 領域は幅が2倍になっているのだから、この点は、左下端 (2s, 0) から距離 2d の点 (2s + 2d, 0) に変換されている。それらの点での領域の高さを考えると、変換前は 1/(s+d)、変換後は 1/(2s+2d) = 1/(s+d) × 1/2。つまりその地点では、領域の高さが 1/2 倍されている。d は任意なので、変換前と変換後では、対応する場所は、どこもかしこも高さが1/2倍。

要するに、M(2s, 2t) 領域は、M(s, t) 領域と比べ、幅が2倍・高さが1/2倍に拡大・縮小されている。だから両者は等しい面積を持つ。上記の議論は、2 という数を 3 に置き換えても、そのまま成立する:
M(s, t) = M(3s, 3t)
一般に、任意の正の数 k について:
M(s, t) = M(ks, kt)   ……… ①

特に k = 1/s とすれば、M(s, t) は
M(s × 1/s, t × 1/s) = M(1, t/s)
に等しい。従って、任意の面積 M(s, t) の大きさは、常に左端が x=1 の領域の面積として表現可能。左端のx座標が 1 の領域の面積 M(1, z) を L(z) と書くことにすれば
M(s, t) = M(1, t/s) = L(t/s)
M(2, 4) = L(2)
M(1.2, 3.6) = L(3)
などとなって、L 表記の方がすっきりするし、面積の大小を容易に把握できる。

s, t は正で s < t という条件なので、1 < t/s であり、上記 L(z) の z は 1 より大きい数…ということになる。形式的に L(1) = M(1, 1) は「x=1 から x=1 までの面積」なので、領域の幅がゼロの場合の面積。従って、面積ゼロ、つまり L(1) = 0 という定義を追加するのは、自然だろう。同様に考えると、L(0.9) = M(1, 0.9) などは幅が −0.1 なので「負の面積」と解釈可能だが、ここでは話を簡単にするため「L(z) の z は 1以上」と限定し、面積 L(z) は負ではないとしておく。

さて、重大なのは、1以上の任意の2数 a, b について、L(a) + L(b) = L(ab) が成り立つこと。

具体例として、a = 1.4, b = 2 のケースを考えてみよう。L(1.4) = M(1, 1.4) であり L(2) = M(1, 2) だが、①により後者は M(1.4, 2.8) に等しい(①において k=1.4 とした)。すると、L(1.4) + L(2) は、面積 M(1, 1.4) と面積 M(1.4, 2.8) の和に等しいのだが、これは「逆数のグラフの曲線」の下の面積について、x=1 から 1.4 の領域(下図の水色)と x=1.4 から 2.8 の領域(下図の黄緑)を足し合わせることを意味する。結果は x=1 から 2.8 の領域の面積に他ならない。

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すなわち:
L(1.4) + L(2) = M(1, 1.4) + M(1, 2)
= M(1, 1.4) + M(1 × 1.4, 2 × 1.4) = M(1, 1.4) + M(1.4, 2.8) = M(1, 2.8) = L(2.8)

一般に:
L(a) + L(b) = M(1, a) + M(1, b)
= M(1, a) + M(1 × a, b × a) = M(1, a) + M(a, ab) = M(1, ab) = L(ab)

この L(a) + L(b) = L(ab) という性質は、「対数法則」とか「対数の基本性質」と呼ばれるものの一つ。教科書では往々にして e が天下り的に定義され、読者から見ると「机上の空論」のような議論が展開される…。対照的に、上記のように面積の足し算と解釈すると、エレガントではないかもしれないが、明確なイメージを持つことができ、どうしてそうなるのか実感できるだろう。…私たちはまだ L(x) が loge x と同じであることを示したわけではないが、これから、シェルバトフのアイデアを基に、その方向へと進んでいく。e の意味も可視化し、教科書にあるような e = limn→∞ (1+1/n)n の意味も明らかにしたい。「数学は論理。形式的・公理論的につじつまが合っていればそれで十分」という考えの人にとっては、不必要な回り道かもしれない。「数学は暗記。公式とパターンを覚えればいい」などという人は論外。一方、「厳密な論理性が必要だが、それだけでは十分でない。直観的イメージも重要」という考えの人、「既に知っている定義・定理でも、その定理を定義として、逆に定義だったものを定理として導くことは、必ずしも無駄な回り道ではない」という考えの人にとっては、多少の興味を引く題材かもしれない。(つづく)


以下はちょっと別の話題です…。

2021-02-24 船乗りのロマン メルカトル図法とセックたん

多くの方は、メルカトルが、新しい種類の地図を考えたことをご存じだろう。「行きたい場所が、現在地から見て地図上で x° の方角なら、方位磁針を使って x° の方角に真っすぐ進めばいい」…メルカトル図法は、この単純で便利な性質を持つ。

メルカトル図法には sec x と ∫ sec x dx が絡んでくるのだが、当時の人々は、まだ微積分が発見されてないのに、この計算をやっていた! それだけでも興味深い。

∫ sec x dx なんて、大抵の人にとって「無味乾燥な計算問題」だろうが、その裏にはドラマがあった。地図上の方向・計算上の距離と、実際の方向・距離がずれてたら、海上で迷子になったり食糧が足りなくなったりして、生死に関わる。この積分には、船乗りの命が懸かっていた…。

そのことを読み物として、まとめたものがこちら:
An Application of Geography to Mathematics: History of the Integral of the Secant
https://www.maa.org/sites/default/files/0025570x15087.di021115.02p0115x.pdf

どうして sec が関係するのか、簡単な図解を交えて、4ページ少々で紹介。当時の雰囲気・歴史的コンテキストを垣間見ることができ、結構ワクワクする。∫ sec x dx に愛着が湧く。

好奇心を感じた方は、上記を拡充した次の文献もどうぞ。
ERIC ED214787: UMAP Modules-Units 203-211, 215-216, 231-232.
PDF版  https://archive.org/download/ERIC_ED214787/ERIC_ED214787.pdf
DjVu版  https://archive.org/download/ERIC_ED214787/ERIC_ED214787.djvu
スキャンの53ページ目(※冊子に印刷されているページ番号ではない)から Mercator’s World Map and the Calculus というテキストがあって、約20ページにわたって、多くの図を交えて丁寧な説明がなされている。

なぜメルカトル図法が船乗りにとって便利なのか。一定間隔の緯度を地図上ではだんだん広くなるように描かなければならない理由。その拡大率が緯度 φ に対して sec φ になる理由。水平方向の幅もそれに比例して拡大しなければならない理由(だからグリーンランドが地図上でやけに大きく見える)。この地図上での距離は、sec の積分になること。何種類かの計算方法。簡単に、それを級数でも表現できること。

あいにく2番目の資料はノイズが多く、スキャンがぶれていて読みにくい箇所がある(1番目の資料は鮮明)。

「超お薦め」というほどではないが、興味を感じたら、のぞいてみてください。少なくとも、機械的に計算法だけ暗記するより、モチベーションが湧くでしょう。「級数で表現」の部分は特に面白いので、次回このコーナーで紹介しますね!

2021-02-25 メルカトルの地図とウォリスの級数 海の「アナログGPS」

y = sec x の積分は、今では「ただの面倒な計算」だが、大航海時代には人命に関わる重大問題だった。

sec x = 1 / cos x = cos x / cos2 x  ………①
= cos x / (1 − sin2 x)  ………②
= cos x / [(1 + sin x)(1 − sin x)]  ………③

①で分母分子に cos x を掛けているのは、2乗を作って②から③の形にして、部分分数分解へ持ち込むため。ここまでは味気ない式変形だが、ここからは、英国の John Wallis が1685年に発表した面白い計算法を紹介したい。

x が 0 以上 π/2 未満という条件を付ける。②が絶対値1未満の正の数であることに注意する。等比級数の公式によると:
  |a| < 1 ならば 1 + a + a2 + a3 + … = 1 / (1 − a)  ………④

a = sin2 x と置くと 1 / (1 − sin2 x) = 1 / (1 − a) となり、②は [1 / (1 − a)] cos x。④を逆向きに適用すると:
sec x = [1 / (1 − a)] cos x = (1 + a + a2 + a3 + …) cos x
= [1 + (sin2 x) + (sin2 x)2 + (sin2 x)3 + …] cos x
= cos x + sin2 x cos x + sin4 x cos x + sin6 x cos x + …  ………⑤

暗算できる簡単な微分 (sin x)′ = cos x, (sin3 x)′ = 3 sin2 x cos x, (sin5 x)′ = 5 sin4 x cos x, (sin7 x)′ = 7 sin6 x cos x, … を逆向きに使うと、⑤を容易に積分できる:
∫ sec x dx = sin x + sin3 x / 3 + sin5 x / 5 + sin7 x / 7 + … + C

C は積分定数。積分区間を x=0 から x=θ までとすると(0 ≤ θ < π/2):

F(θ) = 0θ sec x dx = sin θ + (sin3 θ) / 3 + (sin5 θ) / 5 + (sin7 θ) / 7 + …

何ときれいな式でしょう!

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<例1> θ = π/6 とすると sin θ = 1/2。大ざっぱな話として、最初の3項だけを考えると:
F(π/6) ≈ 1/2 + (1/2)3 / 3 + (1/2)5 / 5 = 263/480 = 0.547…

原始関数経由で描いたグラフ(図の赤い曲線。青い曲線は y = sec θ)と見比べると、確かに横座標が θ = π/6 のとき、赤い曲線の縦座標は 0.5 くらいに見える。ちなみに正確な値は 0.54930…。

π/6 = 0.523… なので、メルカトル図法の地図では、赤道(θ = 0)から北緯30°(θ = π/6)までの長さが、正しい縮尺より5%くらい長めになる。角度を正確に表示するため、距離表示の正確さを犠牲にした。でも、上記の積分で航路の長さを補正すれば、船乗りたちは迷子にならず、正しい航海計画を立てられる。sec とその積分は「手で計算するGPS」だった。

<例2> グラフの横軸 5π/12 において、赤い曲線の縦座標がちょうど2くらい(2より微妙に上)なのが目を引く。θ = 5π/12 とすると s = sin θ = 1/(√6 − √2) であり:
F(5π/12) ≈ s + s3/3 + s5/5 + s7/7 = 1.546…
いかん、約2になるはずなのに、収束が遅そうだ!
s + s3/3 + s5/5 + s7/7 + s9/9 = 1.627…
s + s3/3 + s5/5 + … + s11/11 = 1.689…
早送りしましょう。
s + s3/3 + s5/5 + … + s25/25 = 1.897…
25乗まで足しても収束する気配がない。
s + s3/3 + s5/5 + … + s53/53 = 1.998…
s + s3/3 + s5/5 + … + s55/55 = 2.001…
とりあえず、2を超えたが、先は長そう。
s + s3/3 + s5/5 + … + s101/101 = 2.02425…
s + s3/3 + s5/5 + … + s201/201 = 2.02753…
s + s3/3 + s5/5 + … + s301/301 = 2.02758…
s + s3/3 + s5/5 + … + s401/401 = 2.02758…

さすがの John Wallis も401乗までは足さなかっただろう。③を真面目に積分した方が手っ取り早いのだが、これはこれで楽しい。効率はともかく、sinの表だけ持ってれば手動で計算できるので、当時の人にとっても便利だったのかもしれない。

上記の値を 5π/12 = 1.30899… と比べると、メルカトル図法の赤道→北緯75°(θ = 5π/12)の距離は、約1.55倍に表示される(正しい縮尺より5割以上長い)。北緯75°地点での「地図上の距離の拡大率」は、sec θ = √6 + √2 = 3.86…。グラフの青線からも 3.9 に近いことが読み取れる。この高緯度では距離が約4倍に誇張され、赤道から通算した「平均拡大率」だと約1.55倍。ちゃんと補正しないと、まともな旅行計画が立てられない。それでも「メルカトル・ナビ」は、目的地への正確な方向を示してくれる強い味方。GPSの電波を受信する代わりに、方位磁針で地球の磁場を受信しながら、船乗りたちは大海原を進んでいった。星座の位置を調べて、現在位置を確認しつつ…。現代の航法から見ると原始的だが、ロマンチックな感じもする。

この種の世界地図ではグリーンランドが巨大に見えるが、「北海道は大きい」というイメージにも、部分的には、緯度が高いことによる「地図上の拡大効果」が関係しているのかもしれない(本当に大きいけれど、メルカトル図法では、大きさがさらに誇張される)。

参考文献: Tuchinsky (1978), Mercator’s World Map and the Calculus, 第5節

2021-02-26 メルカトルの描いた日本(1569年) このナビは当てにならん!

せっかくなので元祖メルカトル図法の地図を見てみた。
File:Mercator_1569_world_map_sheet_12.PNG

JPEG画像

朝鮮半島の出っ張りがないことを別にすれば、アジア大陸の輪郭線は、結構、雰囲気が出てる。日本列島は「東北から南西に向かって島がいろいろある・東西の幅より南北の広がりの方が大きい」程度には認識されている。

日本海(?)の部分のキャプション…
Magnus ſinus Ptol: Chrise Plin: hodie
mare C?? ? G?? regno (quod est Mangi) sic a
Japanitis appellato
《プトレマイオスのいう「大きな湾」、プリニウスのいう「クリセ」、今日のG??王国?C??の海、この王国とはマンギ?のことだが、日本人たちにはこう呼ばれる》

??は、リンク先のスキャンの解像度が低くて文字が読み取れない部分。mare C?? は「シナ海」かもしれない。Mangi は中国の明(みん)だと思われる。日本語名にまで言及しているのは驚きだが、要領を得ない。

ばかでかい本州(?)のキャプション…
Japan [d]i[c]ta Zi[pan?]
gri a M Paul[o] Venet[o],
ol[im?] Chrise
《ヤパン。ベネチアのM.パウルス(=マルコ・ポーロ)にジパン・グリと言われた。かつてのクリセ》

「日本」が女性扱いされている。ロシア語では現在も女性、イタリア語やフランス語では男性名詞。どうして?

メルカトルの地図システムは、方位を正確に表示できる画期的なシステムだった。けれど、入力されてる実際のデータは、結構いいかげんだったことが分かる。例えるなら、優秀な3DCGレンダラーを開発したまでは良かったが、入力されたオブジェクトの作画に問題が…。でもメルカトルさん、悲しまないで。あなたのアルゴリズムは、今でも海図の標準、ネットの地図としても世界中で使われてますよ!


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