4 : 10 こっくりさんの転送速度

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逃げちゃおぜ、世界の中に: 第5話 こっくりさんの転送速度

2007年 2月15日
記事ID d70215

あぁん? 幽霊? けっ。出る場所、間違えてるよ、あんた。

あんたさー、人が驚くの見て何が楽しいの? もっと有意義に時間使ったらぁ?  ったくガキと同じだな。つか、バカが死んでもバカな霊しかできないのは自然の原理だな…。 カマッテちゃんは無視無視。 勝手に出たり消えたりしてな。出たらきゃあきゃあ言ってもらえると思ったら大間違いだぜ。 ったく、人間の霊の分際で。おい、じゃまくせーからうせろよ。つまんねーんだよ。 悔しかったら物理レイヤーで来いや。 絞め殺すとかしてみろよ? かすり傷ひとつ負わせる力もねえくせに、 くっさいこけおどししてんじゃねー、だぼが。 ゴキブリの方がよっぽど怖いって、おまえはゴキブリ以下。 さっさと引っ込め、このひょうろくだま。ぐずぐずしてるとホントに完全消滅させるぞ、おらおら。

— そう毒づく友人を見て、おれは霊がちょっと気の毒になった。

「まあまあ」おれは言った。「一期一会いちごいちえというじゃありませんか。せっかく出てきてくれたんだ、これも何かの縁。 線香の一本でも上げて、成仏できるようにお経の一つでも…」

おれがそう言うと、霊は明らかにうれしそうに、こっちにすり寄ってきて、おれの背後に回った。 文字どおりの背後霊…。まあ、あのカワリダネから自分を守ってくれる盾のように思ってるんだろう、おれのこと。

「ヤサシイって、ホントにお人好しだなぁ…。けど現実的に線香なんてねえぞ、ここに。 今どき線香なんて、普通ないって」友人は言った。「近いものをしいてあげれば…、うーん…」しばし考え込んでから、ぽつり、
「ベープマットと虫除けスプレーが押し入れのどこかにあったような…」

「ベープマット?」おれは首をひねった。「おお! お線香→蚊取り線香→ベープマットか」

霊はいやそうな顔をした。

「お経なんてのもないぞ。知らないし。普通そうだろ」友人は言った。「近いものをしいてあげれば、 いつか落としたフォーレのレクイエムがダウンロードフォルダにあるかも、まだ消してなかったら。APEだったかな。 あとネタ用の尊師マーチがどっかにあるけど?」

「フォーレねえ…。うーん…。ある意味、お経…みたいなものなんだけど、そういうのってやっぱうれしいの、霊って?」おれは背後のヤツに尋ねた。

霊はきょとんとした表情、意味が分かってないようだ。フォーレを、そもそもレクイエムという言葉自体、知らないのかもしれない。

「♪ルェェェクィエーーーム、アェテーーールルルナーーーム、ドナ、エーィス、ドーミネ~~」友人はちょっと歌って言った。「いいじゃん、いいじゃん、 どうせ普通のお経だってオリジナルはパーリ語かなんかで、 霊には意味が分からないって。ありがたいと思って聞けばありがたいんだよ」

「歌うなよ」おれは顔をしかめた。「それにエィスでいいの? この霊、女じゃねー?」

「♫ キーリエ、キーリエ、キーリエ、エレーーーイソ~ン♪♪」

「作品中で歌うなってば。出版するときページにみにくいJASRAC承認マークがくっつくだろ。やめてくれ」

「そうだ、おい、霊!」友人は突然、顔を輝かせた。「JASRACで思い出したけど、おまえ、死んでるんだから、何やっても人間の法律で罰せられないわけだよな。 それってある意味、最強じゃん。 おまえさ、物理レイヤーはいじれなくても、情報レイヤーは行けるんだろ。 視覚野で認識されるくらいなんだから?  超くせになりそうのマスターコピーをどっかから引っ張って来れん?  あとサリーちゃんのDVDに入ってないエピソードとキャンディーキャンディーのTV版! この世に何の未練があるのか知らんが、コピーしてきてくれたら力になってやるぞ」

「霊を変に活用するなよ~」おれは笑った。「それにそれだと、霊という道具を使っただけの実行犯になるぞ、おまえ」

「じゃあこの霊が交通事故死だったとしてドライバーは著作権法違反の幇助か?」

「またわけの分からんことを…」

「いやそれは冗談だけど、まじ考えてみ」カワリダネは言った。「0と1だけ書いてある紙を用意して、こっくりさんをやるわけ。 『こっくりさん、こっくりさん、Poppin' Heartはひとつだけ?のCDの第1ビットは何ですか。第2ビットは…』とか尋ねてデータを複製してみ。 その方法で“たまたま”同じものができたとしても、不可能犯になるから不可罰だ。“霊や呪いを使った犯罪”は刑法では罰せられないんだよ」

いつものことながらカワリダネの思考実験はかっとんでいる。

「しかしそれでは転送効率が悪いから」カワリダネはうれしそうに続けた。「0x0000から0xFFFFまでますめを作った紙でこっくりさんをやろう。 1パケットで16ビットも転送できるぞ! 転送速度が一気に32768倍だぁ☆」

おいおい、何だよ「こっくりさんの転送効率」って…、それに転送速度は16倍で、32768倍は分解能だろ。

「さらに効率を上げるために圧縮アルゴリズムと並列ダウンロード…プロトコルはやはり…こっくりさんの信頼度を考えて、誤り訂正符号の実装は…」

いつまでもぶつぶつと独りでつぶやいている。 さえぎらないときりがないやつなので、

「ところで、カワリダネ」

おれは無理やり話題を変えた。「おまえさっき人間の霊の分際でどうとかわめいてたけど、あれはどういう意味なんだ?」

「ああ…。たいして深い意味はないよ。作者はぼけてもハーロックはいつまでもかっこいいだろ。人間とこっちの世界の違いさ」

*

さすがに何でもというわけにはいかないようだが、 この霊、普通のものなら、題名などを教えればどこからともなく見つけてきてくれる。まさに霊も使いよう、こっくりさんをやるまでもなく、 データをハードディスクに念写してくれるのだった。たぶん心霊写真の原理なのだろう。

そんなわけで、おれたちは、この日から、尋常な方法では入手できないデータをあれこれ入手しまくった。 せっかくだからたまにはアップロードもした。 優れているのに評価されずに忘れられている絶版モノなどを、興味を持ちそうな相手のHDにそっと置いてきたり。

PCのフォルダにある日、突然、見慣れぬメディアファイルが…。そんな体験がもしあったら、おれたちのしわざかもしれない。 ウイルスじゃないので、観賞してみてくれたまえ。ところで、くだんの幽霊だが、 持ってくるデータがぼけ気味なのにいらついた友人が3DNRやら何やらかけまくっていたとき、うっかりゴースト除去フィルターをオンにしてしまい、 HD内で念写作業の途中だった彼女は巻きぞえで消えてしまった。

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