7 : 24 複素数の複素数乗

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−1 の 3/2 乗? オイラーの公式(その2)

2019年 3月 3日
記事ID e90303

(−1)3/2 って ((−1)3)1/2 = (−1)1/2 = i なのか、((−1)1/2)3 = i3 = −i なのか、それとも…?

exp zez が同じという根拠は?


曇りなきオイラーの公式 微分を使わない直接証明」では、オイラーの公式 exp ix = cos xi sin x厳密に証明した(中学生に説明するようなつもりで、全ステップを基礎から徹底検討。別の記事として、厳密ではないがとっつきやすい説明も)。以下では、exp の定義が全ての複素数 z に対して有効なことを確かめ、「exp zez とも書く」ということの意味を明らかにしたい。

expsincos のような関数で、入力と出力の対応規則は厳密に定義されている。一方、ez は「一般のべき」(複素数の複素数乗)の一種で、ある種の曖昧さ・紛らわしさを持つ。例えば x = 8i, y = 1/2 のとき (ex)yexy。右辺は e4i だが、左辺の主値は e4i。奇妙さは「虚数乗のせい」とも言い切れない。実数の指数でも、

といったことがある。


  1. 複素数の範囲の指数・対数
  2. 指数の和
  3. 指数の積
  4. ii

複素数の範囲の指数・対数

【1】 オイラーの公式の証明によって、指数関数 exp が(実数の入力だけでなく)純虚数の入力に対しても意味を持つことが分かった。指数関数はさらに、一般の複素数の入力に対して拡張される。

命題7 z = x + iy を任意の複素数(x, y は実数)とすると:

証明 便宜上、X = x, Y = iy と置く。実数 X に対して、指数関数の値(いわゆる eX)が定まることは、よく知られている。定義に則して書くと:

純虚数 Y = iy に対して、次の値が存在して cos y + i sin y に等しいことは、証明済み(オイラーの公式)。

以下では、一般の複素数 X + Y に対しても、関数の値

が存在すること(そして C = AB であること)を示す。

α = 1 + (X + Y)/n と置くと、(H.3) で考えているのは αn の極限値。その際、X + Y は任意の複素数なので、整数 n に等しくなる可能性もある(そのとき α = 0)。この可能性を排除するため、n > | X + Y | という条件を付け、十分大きな自然数 n だけを考えることにする。すると常に α ≠ 0 なので、次の式変形が成り立つ:

  1. (1 + X/n)(1 + Y/n) = 1 + (X + Y)/n + XY/n2 = α + XY/n2
  2. = α[(α + XY/n2) / α] = α[1 + (XY/n2) / α]

今、f(n) = (XY/n2) / α と置き、上の等式の左端・右端をそれぞれ n 乗すると:

このとき nf(n) = n[(XY/n2) / α] = (XY/n) / (1 + (X + Y)/n) なので:

(H.4) において n→∞ とすると、左辺は (H.1), (H.2) により AB に等しく(積の極限値は極限値の積)、右辺は C に等しい。なぜなら α の定義と (H.3) により αnC であり、(H.5)命題3により [1 + f(n)]n → 1

証明終わり □

(H.4) の導出では、「任意の2個の複素数 b, c について (bc)n = (bn)(cn)」という性質を使っている。ここで n は自然数なので、(bc)n は単に (bc)n 回掛けたもの。従って、乗法の交換法則から上記の性質が成り立つ(もし n が一般の複素数なら、この性質は必ずしも成り立たない)。

【2】 「等しい」ということは「以上」や「以下」の一種なので、(H.4) の代わりにこう書いてもいい(わざわざ大げさだが)。

n→∞ とすると:

上と下から不等号で挟まれたこの lim は、= AB に収束するしかない。

【3】 命題7とオイラーの公式を組み合わせると:

注: 読みやすさのため、exp xex のように書いている。この表記法については後述。

(H.6) の右端の式は、極形式(※)になっている。つまり exp (x + iy) というのは、絶対値ex偏角y の複素数。例えば exp (2 + 3i) = e2 [cos 3 + i sin 3] の絶対値は e2、偏角は 3

(※) ここでは「極形式」についての説明は省略。必要なら「複素数の絶対値」「複素数の偏角」「極形式」などのキーワードで検索を。

exp の出力の絶対値は、入力の実部 x だけで決まる。x が大きくなれば、実変数の ex と同じ勢いで絶対値が急激に大きくなる。一方、入力の虚部 y によって、出力の偏角が決まる。y が大きくなっても小さくなっても、偏角がグルグル回るだけで、exp の絶対値には影響しない。従って、入力値の虚部だけが のちょうど整数倍、変わった場合には、exp の出力は変化しない。オイラーの公式から exp (πi) = −1 だが、exp (3πi) = exp (5πi) = −1, exp (−πi) = exp (−3πi) = −1 でもある。

そうすると逆に「exp z に何を入れると −1 になるか?」と考えた場合(つまり「log (−1) は幾つか?」と考えた場合)、答えが無数にある

一般に w = exp z のとき zlog w の値の候補の一つだが、唯一の候補ではない。なぜなら任意の整数 k に対して w = exp (z + 2πik) が成立。三角関数の逆関数と似た状況。虚部は三角関数そのものなので、似ていて当然だろう。逆関数の値を1個に決めたい場合には、逆三角関数の場合と同様、主値が定義される。数学では「偏角の主値は π より大きく π 以下の範囲」と定義することが多いので、それに合わせて「虚部が π より大きく π 以下」の複素数を主値とすればいいだろう:

ここではエルを大文字にして主値を表す。負の数の対数が分かると、世界が広がった感じがして、ちょっとうれしい!

指数の和

底が同じ「正の実数」のとき、指数が実数なら、22 23 = 22+3 のように、2個の「べき(累乗)」の積は1個のべきに簡約され、前者の「2個の指数」の和が後者の指数。指数関数についても、x, y が実数のとき、ex+y = exey つまり exp (x + y) = (exp x)(exp y) が成り立つ。実は x, y が複素数でも、同様の法則が成り立つ。

命題8 x, y が任意の複素数のとき:

証明 命題7の証明の大部分は、X = x, Y = y が任意の複素数だとしても、そのまま有効。証明の一部は、関数値 A, B, C の存在に関するものだが、任意の複素数に対して関数値が存在することは(命題7により)既に分かっているので、AB = C だけを示せばいい。

証明終わり □

別証明 「実数の指数について exex = ex+x が成り立つこと」は既知として、それを複素指数に拡張する。任意の複素数 z = x + iy, z = x + iy′ に対して(x, y, x, y は実数)、命題7とオイラーの公式から:

  1. exp z = exp (x + iy) = (exp x)(exp iy) = ex (cos y + i sin y) ……… (I.1)
  2. exp z = exp (x + iy) = (exp x)(exp iy) = ex (cos y + i sin y) ……… (I.2)
  3. exp (z + z) = exp (x + iy + x + iy) = exp [(x + x) + i(y + y)]
  4. = exp (x + x) [exp i(y + y)] = ex+x [cos (y + y) + i sin (y + y)] ……… (I.3)

(I.1)(I.2) の積を考え、(実変数の)三角関数の加法定理を使うと:

  1. (exp z)(exp z) = ex (cos y + i sin yex (cos y + i sin y)
  2. = exex [(cos y cos y − sin y sin y) + i (sin y cos y + cos y sin y)]
  3. = ex+x [cos (y + y) + i sin (y + y)] ……… (I.4)

(I.3) の右辺と (I.4) の右辺は等しいので、それらの左辺は等しい。

証明終わり □

指数の積

【1】 底が同じ「正の実数」のとき、指数が実数なら、(22)3 = 22×3 のように、「べき(累乗)」のべきは1個のべきに簡約され、前者の「2個の指数」の積が後者の指数。指数関数についても、x, y が実数のとき、(ex)y = exy つまり (exp x)y = exp (xy) が成り立つことが知られている。

x, y が一般の複素数のときにも、これが成り立つだろうか?

【2】 成り立つ・成り立たないという以前に、そもそも (exp x)y とは何なのか。x, y が任意の複素数のとき、y 乗される数 b = exp x は、一般には複素数。つまり (exp x)y は「複素数 b の複素数乗」の計算に当たる。「e の複素数乗」は、ある意味、既に定義されているが(ex = exp x だとすれば)、それをさらに拡張した「複素数の複素数乗」は、まだ定義されていない。定義済みの exp を使って by を定義したい。

ここで b = exp x。実数の範囲だけ(b, x, y は実数で b > 0)で考えるなら、これは x = log b ということで、こうなる:

2個目の等号は、(exp z)y = exp (yz) という性質(y, z が実数なら成り立つ)に基づく。

実数は複素数の一種なので、「複素数の複素数乗」の定義は「実数の実数乗」の定義を内包していることが望ましい。そこで任意の複素数 b, y についても、(J.1) の左端と右端が等しいということをそのまま by の定義とする:

ただし log 0 は定義されないので(なぜなら exp の値は決して 0 にはならない)、b ≠ 0 とする。y が正の実数なら、(J.2) とは無関係に 0y = 0 と定義できる。

log は、複素数の範囲では無限個の値を持つ(一つの有効な値に対して、i の任意の整数倍を足したものも有効な値)。それを用いて定義される「複素数の複素数乗」も、一般には無限個の値を持つ。値を1個に絞りたい場合には、もちろん log の主値 Log を使えばいい。整理すると:

  1. by = exp (y log b) = exp [y(Log b + 2πik)]
  2. = exp (y Log b + 2πiky) = exp (y Log b) exp i(2πky) ……… (J.3)

ここで k は任意の整数。最後の等号は命題8による。右端の因数 exp i(2πky) は、y が整数のときは、オイラーの公式により常に 1 に等しい。つまり「複素数の整数乗」は、log の無限個の値にかかわらず1個に定まる。これは常識と一致する。一方、y = 1/2 なら、exp i(2πky)±1 に等しい(なぜなら 2ky は任意の整数)。つまり「複素数の 1/2 乗」は、log の無限個の値にかかわらず2個に定まり、両者を ±z の形で書ける。これは平方根についての常識と一致する。y = 1/3 についても同様で、結果は、複素立方根についての常識と一致する。一般に、y = m/n なら(m, n は互いに素な正の整数)、複素数の y 乗は n 個の値を持つ。

【3】 k = 0(つまり主値)を考えた場合、e = exp 1 と定義してこの e を上記の b に代入すると:

懸案だった式が得られた(任意の複素数 y について、ey の主値は exp y に等しい)。

主値を考えるなら、任意の複素数 x, y について、命題8から、実数の範囲と同じ指数法則 exey = ex+y がそのまま成り立つ。この点では「e の複素数乗」は「e の実数乗」の自然な拡張になっている。(ex)y = exy の形の指数法則も、一定条件下でそのまま成り立つ。

以下で見るように、後者の関係 (ex)y = exy は、複素数の範囲では、無条件で成り立つわけではない。指数法則は、実数の範囲と複素数の範囲で、完全互換ではない

【4】 x, y が任意の複素数のとき、(ex)y = exy あるいは (exp x)y = exp (xy) は、一般には不成立。前者については主値バージョンと多値バージョン(=主値に限らない)で話が変わるが、まず多値バージョンについて言うと

e2 の2個の平方根。必ずしも e(2×(1/2)) = e1 = e と同じではない。

主値バージョンの例として、(J.3)b = exp 8i, y = 1/2, k = 0 とすると:

もし仮に Log (exp 8i) = 8i という単純計算が成り立つなら、上の式は exp 4i に等しくなっていた。けれど Log の主値は「虚部が −π より大きく π 以下」と定義されているので、主値の虚部の絶対値は最大でも約 3.148 にはなり得ない。虚部が指定範囲になるように i の整数倍を加減する必要がある:

この数の虚部は、8 − 2π ≈ 8 − 3.14 × 2 = 1.72

これを (J.4) に代入して、命題8とオイラーの公式を使うと:

  1. (exp 8i)1/2 = exp [(1/2)(8i − 2πi)]
  2. = exp (4i − πi) = (exp 4i)(exp (−πi)) = (exp 4i)(−1) = −(exp 4i)

(exp x)y = exp (xy) の反例が得られた。

【5】 (ex)y = exy が必ずしも成り立たないのだから、もちろん任意の複素数 b についても、(bx)y = bxy とは限らない。従って、(−1)3/2 = ((−1)3)1/2 とか (−1)3/2 = ((−1)1/2)3 といった式変形は、一般論として、どちらも正しくない(結果がたまたま正しい可能性はある)。(bx)ybxy の関係(両者が等しくなる条件など)については、別途考える必要がある。

主値に関して、上記の例に限って言えば、実は、内側の指数が小さい (−1)3/2 = ((−1)1/2)3 は正しい変形になっている。しかし、例えば (−1)2 = ((−1)4/3)3/2(−1)2 = ((−1)3/2)4/3 は、どちらの順序でも正しくない!

主値に限らない場合、(J.3) によると:

  1. (−1)3/2 = exp ((3/2) log (−1)) = exp [(3/2)(πi + 2πik)]
  2. = exp [(3/2)πi(1 + 2k)] ……… (J.5)

1 + 2k は任意の奇数 ±1, ±3, ±5, …。その (3/2)πi 倍は:

i の整数倍の差を無視すると、いずれも ±(1/2)πi に等しい。ゆえに (J.5) は:

このうち主値は i。これは (J.5)k = 0 としたもの。

主値というのは便宜上の取り決めで、本質的な意味があるわけではない。偏角の主値の範囲を (−π, π] ではなく [0, 2π) として、それを使って log の主値を定義することもあり得る。

ii

オイラーの公式から:

従って:

より一般的に、cos, sin の出力は、入力に の整数倍を足しても変わらないので:

  1. exp [i(π/2 + 2πk)] = i ……… (K.1*)
  2. log i = i(π/2 + 2πk) = i(1 + 4k)π/2 ……… (K.2*)

ここで k は任意の整数。主値 Log ik = 0 の場合に当たる。(J.2) の定義式 by = exp (y log b) を使うと:

  1. ii = exp (i log i) = exp [i × i(1 + 4k)π/2] = exp [−(1 + 4k)π/2]
  2. = exp [(−4k − 1)π/2] = exp [(4m − 1)π/2]

簡潔化のため m = −k と置いた。m = −2, −1 のときの値は:

m = 0 のときが主値:

m = 1, 2, 3 のときの値は:

ii には無限個の値があるが、どれも正の実数。任意の1個の値について、その exp (2π) ≈ 535.49 倍やその逆数倍も、有効な値。

(J.3)

を使っても、同じ結論を得る:

  1. ii = exp (i Log i) exp i(2πki) = exp (−π/2) exp (−2πk)
  2. = exp (−π/2) exp (2πm) = e−π/2 em = e(4m−1)π/2
  3. = enπ/2 (n = …, −9, −5, −1, 3, 7, 11, …)

最初から主値だけを考えるなら:

−1 の 3/2 乗? オイラーの公式(その2) > 作成メモ・更新履歴

  1. 2019年3月3日: 初版(v1)。
  2. 2019年3月9日: 誤記の修正。「入力値の偏角だけが の整数倍」→「入力値の虚部だけが の整数倍」
  3. 2019年3月10日: 第2版(v2)。読みやすくするための小編集、数カ所(極形式について注釈など)。

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